アルコール飲料とマクロ寄生(10回目くらいの禁酒宣言)

「禁煙なんて簡単だ。俺は今までに何十回も禁煙して来たぞ!」
若い頃に聞いたジョークです。
色々な人に感想を聞いたところ、これをユーモアと感じるか、人を小馬鹿にしたような発言と感じるかは人によって差がありました。
僕自身も、このジョークを最初に知った二十歳の頃はなかなか面白いジョークだと思いました。タバコを吸わない「状態」と「行為」のいずれも禁煙と呼ぶことから生じる言葉遊びの面白さがあります
ただ、10数年経って、煙草やエチルアルコールをやめたくてもなかなかやめられない状況を経験すると、受け取り方が変わりました。
アディクションの苦しみを矮小化した不快なジョークと感じるようになりました。
 
煙草はかなり前にやめたのですが、最近アルコールの消費量が増えてしまっていたので、6月から断酒することにします。
具体的には、去年の月あたりのアルコールへの出費は4,000円程度なのですが、今年に入ってからだと月に10,000円くらい使っています。
これまでは1ヶ月以上酒をやめた期間は2回ほどあり、長いものは4ヶ月くらい続きました。
その他にも1週間程度で崩れてしまったことが多くあるため、これは10回目くらいの断酒宣言です。
すでに上のジョークで笑える状況ではなく、不快感を感じる資格もないような体たらくです。
少しでも宣言に重みを与えるために、アルコール飲料と人間の関係に関する考察を書きたいと思います。
 

アルコールとマクロ寄生

アルコール、より化学的に正しい言葉を使えばエタノールは、その「ヤバさ(健康への影響、依存性、他者への影響等)」に比べて、社会では寛容に扱われている。
これは、アルコール飲料が人間の社会生活に入り込み、個々の人間ではなく、文化や社会制度に寄生的に適合しているためだと考える。
 

アルコールの相対的なヤバさ

アルコールのヤバさを煙草やドラッグと比較した研究はそれなりにある。
メディアへの露出が最も多いのは、英国の医学者デビッド・ナット教授のものだ。
Twitterでも彼の論文の数字を元にした表がバズっていた時があった。
 
ここではナット教授の有名な調査を2つ紹介する。
1つ目は、依存性と有害性についての比較研究だ。
 
ドラッグ等の有害性、依存性の相対ランキング    
  身体への有害性 依存性 社会への有害性
平均 平均 平均
ヘロイン 2.78 3.00 2.54
コカイン 2.33 2.39 2.17
街角のメサドン 1.86 2.08 1.87
バルビツール酸 2.23 2.01 2.00
アルコール 1.40 1.93 2.21
ケタミン 2.00 1.54 1.69
ベンゾジアゼピン 1.63 1.83 1.65
アンフェタミン 1.81 1.67 1.50
タバコ 1.24 2.21 1.42
ブプレノルフィン 1.60 1.64 1.49
大麻 0.99 1.51 1.50
溶剤 1.28 1.01 1.52
4-MTA 1.44 1.30 1.06
LSD 1.13 1.23 1.32
メチルフェニデート 1.32 1.25 0.97
アナボリックステロイド 1.45 0.88 1.13
GHB 0.86 1.19 1.30
エクスタシー 1.05 1.13 1.09
亜硝酸アルキル 0.93 0.87 0.97
カート 0.50 1.04 0.85

出所: Development of a rational scale to assess the harm of drugs of potential misuse, David nutt(2007)をもとに当サイト作成。出所では「身体への有害性」等の大項目ごとに複数のサブ項目があるが、この表では大項目のスコア(サブ項目の平均)のみを載せた。

この調査の身体的な有害性(Physical Harm)を横軸、依存性(Dependence)を縦軸に取った散布図がWikipediaにも掲載されている。

 
アルコールの平均値(Mean)を見ると、身体的な有害性が1.40、依存性が1.93、社会的な有害性が2.21だ。
これはヘロインやコカインのようなハードドラッグよりは低いが、大麻やLSDやメチルフェニデートよりも少し高いレベルだ。
※メチルフェニデートは、ナルコレプシーの治療に使われるリタリンやADHDの治療に使われるコンサータの成分。日本でも処方される薬だが、医師による慎重な診断と薬局・患者による薬剤の厳重な管理が求められる。
 
もう一つが、他者への有害性と自分自身への有害性についてランキング付けしたものだ。これをもとに作成した表もTwitterでバズっていた。

出所:Drug harms in the UK: a multicriteria decision analysis, David Mutt(2010)

目を引くのは、アルコールの他者への有害性(Halm to Others,縦軸項目)が突出して高いことだ。
飲酒運転や飲酒時の喧嘩だけでなく、アルコール依存症の場合は家族にも深刻な影響を与える。
例えば、アダルトチャイルドという言葉は、現在では機能不全家庭で育った子供が成人後に問題を抱えることを指すが、もともとはアルコール依存症の親を持った子供が成人後に問題や苦悩を抱える傾向から来ている。
また、中島らもの「今夜すべてのバーで」でも、夭逝した主人公の親友の天童寺が、父親のアルコール依存症から大きな影響を受けていたということが物語の軸になっている。

このように、アルコールは他のドラッグや処方薬と比較すると相対的になかなかヤバい物質なのだ。

社会的寛容さとマクロ寄生

相対的なヤバさにもかかわらず、我が国におけるアルコールへの処遇は極めて寛大だ。
成人でさえあれば、コンビニで24時間365日買うことができる。価格も安い。
また、休日であれば、昼から酒を飲んで街をフラフラしていても、それほど奇異な目では見られない。
日本以外では、販売時間に制限があったり、パブリックスペースでの飲酒は非常識と考えられている国が多いが、それでもイスラム教のような宗教的な理由を除けば飲酒が違法という国は珍しいだろう。
概して、世界は飲酒に対して寛容であると言って良いと思う。
 
世界が他の薬理物質と比べてアルコールに破格に寛容であることに、伝統的に受け入れられて来たからという以上の理由はなかなか見出しにくい
だが、「伝統的」というのはなかなか厄介だ。
人間の保守性だけでなく、利害関係者の多さにも関係するためだ。

酒は古くから嗜好品として摂取される中で、徴税制度や経済活動と結びつき、多くの利害関係者を巻き込むようになった
国家、税理士、酒類メーカー、小売業者、広告会社、広告媒体(メディア)といった当事者。さらには経済取引で当事者と結ばれた関係者。
「三菱系の会社は飲み会でキリンビールしか飲まないらしい」というのは当事者が関係者を巻き込む一例だろう。

さて、「世界史」で知られる歴史家のウィリアム・マクニールは、別の著書で「ミクロ寄生」「マクロ寄生」という概念を使っている。

 
うろ覚えなのだが、以下のようなニュアンスだったと記憶している。
ミクロ寄生:病原体や家畜が、人間の増加や移動とともに増減したり伝播していくこと
マクロ寄生:文化や社会的な制度が、人間の活動とともに繁栄・衰退したり伝播すること
例えば、宗教はマクロ寄生的に広がり廃れる。

この軸で捉えると「飲酒習慣」と「エタノール」はマクロ寄生的に人間の経済活動や社会制度と結びついて、その毒性と比べて寛容な取り扱いを享受していると言えるのではないだろうか。

マクロ寄生に公平感で抗う

では、このように飲酒習慣とアルコール飲料がマクロ寄生的に蔓延している中で、苦しみの先延ばしとして酒を飲んでしまう私のような人間はどのようにすべきだろうか。
これをもう一度思い出したい。

加えて、今回は上で述べたようなマクロ寄生的に蔓延する飲酒文化に対して、不公平感を持って取り組みたい。誰かの養分にされているという認識を持つことで抗いたいのだ。

酒で経済的な利益を得る人がいても良い
酒を楽しむ人がいても良い
だが、アルコールを現実から一時的に逃れるための手段として求めてしまう人もいる。
そして現実の捉え方は人によって様々だ。
これは結局、くじ引き的に負の要因を割り振っているように見えるのである。

おわり

以上、今月から断酒するという長い長い決意表明でした。
 
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