アルコール依存者が集めた断酒に役立つマインドセット

連続飲酒で日常にトラブルが出ているわけではないが、過度の飲酒習慣を変え断酒したいと考えている人に役に立ちそうなマインドセットをまとめる。
射程に入りそうな方の参考になれば嬉しい。

最近の酒量と底付きまで行けない不快さ

2019年はことに酒量が増えてしまった年だった。
2018年に自分がアルコールに使った金額はせいぜい43,000円、月にすると3,600円程度だった。
今年はこれまでに120,000円使った。11月までの数字なので月に1万円強である。分かりやすい。
連続飲酒ではないが、ここまで来ると宵の早いうちから飲み始め、気絶するように寝る生活だ。
日によっては昼からも飲む。
自分がフルタイムで勤務していてストレスが極大だったころと似ている。
だがこの程度ではいわゆる底付きには行かない。
人間関係にも健康にも今のところ問題は出ていない。
 
「底付き」というのはアルコール依存症治療で使われる言葉だ。
連続飲酒(朝から晩まで飲んでいる状態)になり、身体的に飲酒が続けられなくなりボロボロになった状況を指す。
底付きまで行かなければ依存症者の更生は始まらないという旨が古い本には書いてあるが、最近ではMI(動機付け面接, Motivational Interview)により底付きまで行かない状態でも効果があがるという考えもあるようだ。
 
自分は、底付きには至っていない。
ただ、この状況に、自分は多くのものを失っている、先送りしているという認識も確かにある。
意に反して絡め取られているという認識も。
太宰治は「人間失格」「いい加減、焼酎の酔いも不潔に感ぜられるようになっていたため」と葉蔵に言わせている。
自分は「いい加減、ストゼロの酔いも不潔に感ぜられるようになった」状況だ。
この機会に自分自身に動機付けをできないかと考え、本稿をしたためている。

 

断酒のためのマインドセット

酒では何も変わらない(解像度を落とすフィルター)

自分を含め、エチルアルコールを「世界の解像度を落とすフィルター」として使っている方は相応に多いのではないだろうか。

仕事のストレス
家族のトラブル
過去の辛い出来事
不安な未来

こういったことが頭の大部分を占めてしまうことがある。
そうした時にアルコールを摂取すると、考えたくないことがいっとき頭から消える。
だが、それは脳みそを雑に縫われたフィルターで覆って、一時的に見えなくしているだけだ。
酔いが覚めれば、悩みはまだ依然として酔う前と変わらない状況で存在する。
自分はこのことに5年前に気がついた。
だが、それでもその後に何度もこの一時的なフィルターを求めた。
それは自分にとってフィルターどころではなくヘイブンであった。
今では、なぜそうなるかにもう少しだけ近づいた。
酒に酔い、目前のトラブルから目を背けているうちに事態が好転することはあるからだ。
だが、それは、自分の当初の悩みが過大であったというだけであり、酒によって事態が好転したわけではない
我々のヒューリスティックな頭は、おそらくその区別ができない。
 

ある程度まで来ると酒には抗えない(インスタントな快楽)

アルコールの悪魔的なところは、金を出して嚥下すれば確実にキクということだ。
自分が使用したことがある神経に作用する薬理物質、SSRI、抗不安薬、睡眠導入剤、ニコチン。
このどれと比べても、エチルアルコールは効いていることが自覚できる。
酒による酩酊を覚え、それを快楽とつなげてしまった人間は、これに抗えない。
そして、このインスタントな快楽が24時間コンビニで売っている。
500円もあれば確実に効く量を入手できる。
私達はこの状況に無力である。
アルコホーリクス・アノニマスでニーバーの祈りが唱えられるのはこのためだろう。
「神よ、私たちに、変えることの出来ないものを穏やかに受け入れる力と、変えるべきものを変える勇気を。
そして、それらを区別する知恵を与えてください。」
これと戦い、適切にいなすための方法は、臨床的に効果があったものも、依存症の先達が経験として残したものもある。
だが、それはそれとして、ある程度まで進行した酒飲みは酒に抗えないという認識から始めるべきだ。
 

酒では何も残らない(後に残るものを幸福と呼ぶ)

酒は肉体へのダメージ以外に何も残さない。
酒に酔い、フィルターをかけた状態で見聞きしたことは、解像度が低い。
知識、箴言、真摯な助言、楽しい会話。
ぼやけていて、翌日にはよく覚えていない
相手がいれば相手に対して非礼だし、食事や文章に対しても雑な扱いをしていると感じる。
まして、何か創造的な活動につなげることは出来ない。
酩酊し、その時はいい気分になったという事実があるだけだ。
 
ここで「酒を飲んでいる時だけでも幸せならそれで良いではないか」という問いが生じる。
自分も長い間これに答えが出なかった。
酒をやめてまでクソ真面目に生きる気概が持てるほど、世界は賛美すべきものには見えなかった。
最近、この問いに答えを出すことが出来た。
それは、我々が幸福だと感じるものの多くは「あとに残るもの」「持続性があり誰かと分かち合える資産を形成する」ものだということだ
日記でも知識でも他者とのつながりでもいい。
少なくとも後に残らない飲酒による幸せは、この性質を欠いている。

 
 

自分は特別な酒飲みだという認識をやめること

自分も含め、依存的な酒飲みの多くは、「自分は他の落ちぶれた酒飲みとは異なる」という根拠のない自信を持っているように感じる。
「他人より感受性が高く生きづらいから」
「他人より能力がある自分が評価されないから」
「多くの人が幸運であるにも関わらず、自分は運に恵まれないから」
「自分は正義感が強く、この世界の醜さに耐えられないから」
などなどと。
自分は特別な酒飲みだと思いながら、同胞であるはずの泥酔者を街で見かけると汚らしいと感じる。
「こいつは、酒の快楽の海にダイブしたいだけの単純な人間だ。複雑な悩みを抱えた特別な酒飲みである自分とは違う。」
再び太宰からの引用になるが、彼の「二十世紀旗手」「苦悩高きがゆえに尊からず」という言葉で始まる。
これは実語教の「山高きが故に尊からず」という言葉を換骨奪胎したものだが、我々にはこちらの方がふさわしい。
「苦悩高きが故に尊からず」
自分の苦悩がスペシャルなもので、自分はスペシャルな酒飲みだという誤解は取り払おう。

 

酒の特権的地位は非合理であるということ

酒のような確実に効くドラッグが、コンビニで年齢確認ボタンさえ押せば24時間買い求めることができる。
他の鈍い薬理物質は刑事罰の対象となっていたり、医師の処方が必要なのに対し、この破格の取扱はなぜだろうか。
これはひとえに、酒が伝統的に、製造者と消費者だけでなく、国家の徴税権と結びついていたことと無関係ではないだろう。
産業の発展とともに、今日では酒造メーカーは、広告産業や企業グループと結びつき、多くの関係者を抱えている。
この政治的な力学が、酒にその効力に比して「甘い」取り扱いを許している。
依存的な酒飲みである我々は、これを厳粛に受け止めたい。
酒が文化的な文脈で寛容に扱われているのは、その関係者の多さゆえであり、それは効果の大きさや、身体・社会への害とは無関係であるということを。
「禁煙なんて簡単だ。俺は今までに何十回も禁煙して来たぞ!」 若い頃に聞いたジョークです。 友人が言っていたのですが、元ネタはマーク・トウ...
 

酒を飲まないでいられる自分は素晴らしいと感じること

長期に渡り依存していた物質を断ち、相応の時間が経つと、全く欲しくなくなる。
むしろ、それに金を使わなくて良いこと、定期的にそれを摂取しなくて良いことに充実感を感じるようになる。
自分がこれを実感したのは煙草だ。
自分は6年前に禁煙し、それ以来1本も吸わずに過ごすことが出来た。
当時より価格が上がり、吸う場所に困るようになっていることもあり、自分の中に煙草を求める欲求はもう無い。
世界と向き合うために、定期的に煙草をふかしニコチンを摂取しなければいけない人々と比べて、自分は幸せだという充実感がある。
この感覚はアレン・カーの「禁煙セラピー」でも書かれていた。
アレン・カーは72歳で肺癌で亡くなった。
だが、30年間チェーンスモーキングを続けた後に、20年以上タバコなしで過ごしてから死んだ。
私は彼の最後の20年は開放感と共にあったのではないかと思う。

アルコールに対しても、このような開放感を感じたいという願いがある。

 

酒の身体への害

酒の身体への害について、きちんと認識しておきたい。
毎日1升飲んで100歳まで生きたなんとか翁のエピソードよりも、注目されない人々に目を向けたい。
以下は、今年読んだこちらの本の記述を参考に記載している。
著者:ウィリアム・R・ミラー, リカルド・F・ミューノス ,翻訳:齋藤 利和
金剛出版
 

 
 
アルコールは体内で水分があるところにはどこにでも回る。
それゆえ、ダメージを受ける部位も多岐に渡る。

脳萎縮

40歳の多量飲酒者の脳は60歳の脳に似ていると言われる。
言語に関する機能の低下にも影響するが、より早く影響が出るのは認知機能である。
記憶力、集中力、抽象的思考、問題解決能力が含まれる。
これは現代社会では失うと人生の難易度が高くなるものばかりだ。
 

消化器系の疾患

多量飲酒者では、口から肛門まで、ほぼ全ての消化器系で発がん率が増える。
アルコールやニコチンのような物質に長期間さらされないと頭頸部(口腔、咽頭、喉頭など)のがんになるのは困難だといわれている。
また、誰もが知るように、多量飲酒はは肝臓に重篤なダメージを与える。
アルコール性肝硬変または肝炎と診断された人の半分以上が4年以内に死に、そのうちの大部分は最初の1年以内に死ぬ。
 

心血管系の疾患

多量飲酒は心臓にダメージを与える。
アルコール性心筋症では、心臓の拡張により収縮する力が失われ、心不全や身体不全につながる。
 

精神衛生

アルコール依存症と診断される人は、不安障害や気分障害を伴うことが高率にあるという。
専門医は、どちらが問題の根源かについては慎重だが、アルコール依存と他の精神疾患が互いに作用し、治療を難しくすると指摘する。
これは、多量飲酒者については言わずもがなだと感じる。
考えてみれば蒸留酒は精神とおなじ「スピリッツ」という名で呼ばれるのだから。
 
その他、酒は老化を早める
 

おわり

長い文章になりました。
年内は酒に関する本の紹介をいくつか書きます。
 
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本ブログのアルコール関連のエントリー
「アル中」の記事一覧です。
旧ブログのアルコール関連のエントリー
他人の言うことに流されたり傷ついたりしないで、自分の頭で考えて生きていきたい。
 

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