RE:「アル中病棟」再読・5年ぶりの感想

漫画家の吾妻ひでお氏が10月に食道がんで亡くなった。
自分は「アル中病棟」で彼の作品を読み始めた新参の読者だが、この本は確実に自分の人生に影響を与えた。
ご冥福をお祈りする。
今回アル中病棟を5年越しでしっかり読み返したので、再読した感想を書く。
以前にも旧ブログに感想は書いているので、併せて読んでいただけると嬉しい。
タイトル:失踪日記2 アル中病棟著者:吾妻ひでお出版社:イースト・プレスコアな支持者の多い漫画家、吾妻ひでお氏の実体験に基づく漫画。吾妻は執筆と仕事がないことへのストレスにより酒量が増し、1998年に連続飲酒状態になる。同年の年末、見かねた家族は吾妻をA病院精

 
この本は当事者の経験に基づくエッセイ漫画であり、本文にも「正式に監修を受けているわけではない」と断りがある。
ただ、私は本書を読んだ後に医師や自助グループの書いた本も読んだが、本書が「アルコール依存症」の格好の入門書だという評価は今でも変わらない。
読み物としても大変おもしろいので、自分の飲酒がコントロールできないと思い始めた方にはぜひお勧めしたい。
 

依存症の描写のリアルさ

本書のテーマは、著者が4ヶ月弱入院していたアルコール依存症治療の専門病棟での出来事だ。
本の中では「A病院」と書かれているが、入院していたのは三鷹の長谷川病院だと別のインタビュー記事で読んだ。
だが、病棟での出来事以上に自分の心をつかみ「この本は生涯持っていよう」と思わせたのは、冒頭の入院前の連続飲酒状態の描写だ。
 
昼間は100円の日本酒5パック買って街や公園をフラフラ
帰宅する時25度の焼酎1.8lパック買い
ろくに食事もせず一晩中飲み続け気絶するように眠る
 
なんてことはない、フルタイムの仕事をしていたが、当時の自分の土日の生活はこれと変わらなかった
(ディティールに立ち入るなら、自分も焼酎は飲んだが、合成清酒よりはストロングを好んだ。)
 
入院前の状況を書いているのは実に4ページなのだが、この辺りの描写は事前知識の無い人間にアルコール依存症の要点を教えてくれる。

1つ目は、依存症者はもっぱら一人で酒を飲むということだ。
誰かといる時に、会話を円滑にしたり話題が枯れた間をもたせるといった使い方ではない。
一人で酩酊を楽しむためにエチルアルコールを摂取するのである。

2つ目は、依存症者は安い酒を飲むということだ。
焼酎甲類、合成清酒、スピリッツ、ストロング
薬理作用が目的なので、高い酒はいらない。

3つ目が、アルコール依存は様々な事故につながるということだ。
本書では、著者が連続飲酒の末期に、自転車で転んで肋骨を骨折、公園のベンチから落下して頭部を打つ、オヤジ狩りに遭うといった描写が(3コマだけ)ある。
アルコールにより死因というと、肝硬変のような疾患を想像する人が多い。
だが、それだけではなく、アルコール依存は交通事故、転倒、他人とのトラブルといった危険を引き寄せる(そして自殺念慮も)。

見に覚えがある人間が読むと、これだけの気づきがある。

 

飲酒量と本書の射程

否認の病、機能不全家庭の子供、抗酒剤、自助グループ
こういったアルコール依存に関するキーワードの多くを、自分は本書で初めて知った。
その後に自分の飲酒をコントロールするためにいろいろと本を読んだが、これらのキーワードは何度も出てきた。
いずれも依存症を理解するために重要なアイデアだ。

その一方で、本書の登場人物と自分の飲酒状況には隔たりがあるとも感じる。
本書の登場人物は依存症治療の病棟に入院している人々なので基本的に酒でボロボロになり、底付きまで行った人々だ。
(「底付き」というのは連続飲酒が続き身体的に飲酒が続けられないほどにボロボロになった状態)
したがって、問題飲酒予備軍として娑婆で暮らしている人間が実践的な方法を探しているのであれば、それは本書の射程の外になる。

(この「底つきまで行っていないが飲酒に問題がある人間」への指針としては、、以下の本がとても良かった。

これについては改めて感想を書きたい。)
 

おわりーエッセイ漫画の面積

最後に、本書の内容とは離れるが、この5年間でエッセイ漫画を目にすることが多くなったと感じる。
  • Twitter、Pixiv、noteなどのプラットフォームを通して、絵が描ける人が自分の経験を発信しやすくなった
  • 刺激的で共感や違和感を集めるものが拡散する速度が早くなっている
理由はこのあたりにありそうだ。
事実、自分もSNSではないがネットで本書を知り、共感と刺激から手にとった。
ただ、本書は漫画家としてのキャリア40年の頃に書かれたものということもあり、他の作家と比べて絵も構成も非常に巧みだと感じる。単純に漫画として面白い。

酒との付き合い方を変えたいと思い始めた方にも、刺激的なエッセイ漫画を探している方にもお勧めします。

 
 
 
 

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする